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ワビサビ

この世界の片隅に(下)/こうの史代 著

コミックス下巻では、すずにとって大切なものが失われることになります。

この巻において、こうの史代氏はその「大切なものが失われた」以降、背景を左手で描いています

左手で描いていますから、線は歪み、決して上手とは言えない絵となっていて、しだいに担当編集者から渋い顔をされるようになったと、こうの史代氏は語っています。

 

この「この世界の片隅に」は戦争を題材にした物語ではありますが、戦争の物語ではありません。

「この世界」とは何かを描いている作品です。

人が「誰かの物語」の中で生きているという作品です。

 

水原哲「すずが普通で安心した」「この世界で普通で・・・まともで居ってくれ」

中巻において、すずの幼馴染の水原哲は「すずに普通で居ってくれ」と言います。

しかし、すずは大切なものを失い、世界が歪んでいるように感じるようになります。

「わたしは死んだ人が転がっていても平気で通り過ぎた」

「歪んでいるのはわたしだ」

「まるで左手で描いた世界のように」

 とすずは語ります。

 

白木リン「誰でも何かが足らんくらいでこの世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ」

白木リンは上記のように語りますが、すずはその後、自分の居場所に悩みます。

悩むすずに、周作の姉、径子は「わたしはあんたの世話や家事くらいどうもない」「むしろ気がまぎれてええ」と語ります。

最初は性格のキツい小姑として描かれていた径子ですが、径子の中ですずが生きていることがわかります。

径子という人の「人生の物語」の中ですずがきちんと存在しているということですね。

 

白木リン「人が死んだら記憶も消えて無うなる」「秘密は無かったことになる」

第41話「りんどうの秘密」で、すずの右手が白木リンの「人生の物語」を紡ぎます。

すずは「ごめんなさい」「リンさんの事、秘密じゃなくしてしもうた」と語ります。

 

この広い世界の片隅で誰かと誰かが出会います。世界は醜くもあり、美しくもある。

 

そして、誰かは誰かの中で生きています。

 

そして、最終話はすずの右手が「美しい呉の街」を描いて終わります

 

 

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