この世界の片隅に(中)/こうの史代 著

コミックス中巻は、映画版では描かれることのなかった「白木リン」さんに関わるお話しが中心になっている巻です。

 

映画版においてリンさんのお話しがカットされたのは予算の都合ということです。ただ、当初はリンさんのお話しも描く予定であり、絵コンテまで作成していたそうです。

プロデューサーの真木太郎氏は予算の都合でカットさぜるを得なかったとしつつも、絵コンテを読み、この部分も描いていれば確実にもっとすごい映画になっていたと語っています。

 

リンさんは、呉にあった「朝日遊廓」という遊廓で働く遊女です。「朝日遊廓」は遊廓として関西一の規模だったそうです。

この中巻では「周作」と「リン」、「すず」とすずの幼馴染である「水原哲」のエピソードによって、すずの女性としての内面、すず・周作の夫婦としての情愛が描かれます。

周作が持っているノートが一部切り取られているのを見て、すずが「気づいて」しまうシーンはとても印象的です。

 

この巻において、戦争とは関係のない「夫婦の物語」を描くことによって、あの太平洋戦争の末期に「すず」という1人の人間が生き、生活していたということに、物語の中で確かな現実感が与えられています。

すずは、リンに対して「嫉妬」と「友情」がないまぜになった感情を頂きます。そういった矛盾したような感情を持つのが生身の人間というものなのかと思います。

 

リンさんに「誰でも何かが足らんぐらいでこの世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ」というセリフがあり、これが「この世界の片隅に」という作品の主題かもしれません。

(この作品の主題を考えるときには、「この世界」とは何か?、「片隅」とは何か?、ということを考える必要があるように感じています。)

 

また、この巻では2人の死が描かれています。1人の「死」はすずにとって現実感のないものとして描かれています。

もう1人はすずとはそう深い間柄ではない人ですが、すずにとってはショックに感じる「死」だったろうと思われます。その死が語られるシーンで中巻は終わります。

そのシーンでは、「人が死んだら記憶も消えて無うなる」から始まるセリフでリンさんの死生観が語られます。

 

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